【感動する話】彼女と毎日、紙だけで喋っていた。黙りつづける理由を、俺はまだ知らなかった
その人が最初にうちに来た日、 紙を一枚、 差し出された。鉛筆で、 こう書いてあった。
――私、 三か月、 声を出せません。俺は、 それを声に出して読んだ。
「三か月、 声を出せません」彼女は、 うなずいた。うなずいて、 また鉛筆を動かした。
――そのあいだ、 こちらで働かせてください。
――接客はできません。
――奥の仕事だけ、 やらせてください。三月の、 まだ寒い日だった。声楽をやっていた人だと、 母から聞いていた。
――九十日後、 俺はこの人の最初の声を聞くことになる。
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