紅屋の職人が、店を追われても赤い紅を緑に光らせる|日本昔話|紅屋|民話|睡眠用
紅花からとれる赤い色はほんのわずかで、紅は『紅一匁、金一匁』と言われるほど高価でした。良い紅は、猪口の中では玉虫色に光ります。文化のころには、その紅を下くちびるに幾重にも重ね、笹の葉のような色に光らせる『笹色紅』がはやりました。紅をたっぷり使えない人は、下地に墨をぬって少ない紅で光らせる工夫をしたことが、文化十年(一八一三年)の『都風俗化粧伝』に書きとめられています。
文化三年の春、日本橋の紅屋『紅勘』。十二の年から住みこんで十七年の職人・卯三郎は、自分の給金で紅を買い足し、猪口に何度も重ねて緑に光らせ、店の棚の端にそっとならべます。「紅は、赤くしちゃいけねえ。緑に光るまで重ねるんだ!」。ところが買っていった米問屋のおかみが「この紅、緑じゃないか!」と店に乗りこみ、卯三郎は店を追い出されてしまいます。神田の裏長屋にたずねてきたのは、ただひとり。湯島の小さな芝居小屋で、最後の主役をひかえた老いた女形・花村菊弥でした。「遠い客には、わたしの口が、黒く見えるのです」――。貯えも羽織も紅に消え、菊弥の口は昼の稽古で「河童の口」と笑われ、座元には「次はない」と言われてしまいます。追いつめられた卯三郎が、最後にさがしたものとは……。
語り部として、卯三郎は自分の色を押し通した人ではなく、その色がいちばん生きる場所をさがした人だと思いました。笑われたその色が、どこで、だれの手によって光ったのか。どうぞ、最後までお聞きください。
江戸の紅化粧と芝居の灯りの風俗をもとに、新しく書いた創作の話です。卯三郎、勘兵衛、花村菊弥、丈八、亀蔵ほか、人物と紅勘・芝居小屋はすべて架空です。台本は自分で書き、場面の絵と朗読の声はAIで作っています。
#笹色紅 #江戸の化粧 #女形
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