境界性パーソナリティー障害、自己愛性パーソナリティー障害について精神科医がお話しします。
はい、こんばんは。精神科医の芳賀高浩でございます。
今日は「パーソナリティ障害」について、少しコンパクトにお話ししていこうと思います。
もともとこの病名は「人格障害」と呼ばれていました。「人格」というのは人となりそのものですから、「人格が障害されている」という言い方はあまりにキツい、差別的なニュアンスが強いということで、「パーソナリティ障害」となり、さらに最近は「パーソナリティ症」という言い方に変わってきています。ただ正直、「パーソナリティ症」はまだピンと来ない方も多いので、今日は分かりやすく「パーソナリティ障害」と呼んでお話しします。
パーソナリティ障害とは、一言で言うと「その人の人となりのクセのせいで、社会生活に大きな支障が出ている状態」です。
うつ病のように“調子を崩している状態”ではなく、その人の長年の性格傾向が、人間関係や仕事の場面で繰り返しトラブルを生んでしまう、そういうイメージです。
うつ病や統合失調症、自閉スペクトラム症、ADHD、知的障害などと“併記”されることもよくあります。つまり「その人となりの評価」としての診断なんですね。
パーソナリティ障害にもいろいろ型がありますが、臨床で特に問題になりやすいのは
境界性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害です。
境界性パーソナリティ障害は、感情と対人関係が非常に不安定です。
相手を「世界一大切な人」と理想化したかと思えば、少しでも期待を裏切られたと感じると「最低のクソ野郎」に一気に落とす、いわゆる“こきおろし”が出てきます。
「見捨てられ不安」が強く、「嫌われたくない、一人になりたくない」という思いから、体を差し出したり、過量服薬や自傷を見せつけたり、夜中に『死んでやる』と何度も電話したりといった行動に出てしまうこともあります。
自己愛性パーソナリティ障害は、一見するとその逆で、ものすごく自己中心的で、人を利用することへの罪悪感が少ないように見えます。
自分を大きく見せるために誇張や嘘も平気、他人を踏み台にしてでも評価や地位を取りにいく──そう見えるタイプです。
ですが、この二つには共通した“病理”があります。
それは**「無条件に自分を肯定する感覚が極端に弱い」**ということです。
自分のしていることに、静かに満足できる人は、他人が多少どうであれ、心の中にある程度の土台があります。
でも境界性・自己愛性の方は、その土台がとても脆く、
「他人に認められていないと、自分の存在が保てない」
という不安の中で生きています。
境界性の方は、自分がとても小さく感じられ、他人が必要以上に大きく見えます。
だから相手の表情一つ、LINEの一言に、感情が100%振り回されてしまう。
ニコニコされたら「この人は私を完全肯定してくれている」と思い込むし、少しでも不機嫌そうなら「もう100%嫌われた」と真っ暗闇に落ちてしまう。その揺れの反動で、理想化とこきおろしが激しくなります。
自己愛性の方は、自分の中の空虚さを直視したくないので、誇大的な自分像を作り上げて、それを必死で守ろうとします。
自分を大きく見せるためなら、多少の嘘、人の利用、悪口も“仕方ない”と感じてしまう。
本質的にはどちらも、「自分は本当は価値がないのではないか」という強い不安を抱えているのです。
なぜこうなってしまうのか。
大雑把に言えば、生まれ持った素質と育てられ方の組み合わせです。
もともと気分が落ち込みやすい、慎重でネガティブに考えやすい素質の子どもが、
「ちゃんと見てもらえない、頑張っても本当の意味では褒めてもらえない」環境で育つと、
「自分がやっていることに静かに満足する力」が育ちにくくなります。
ここで大事なのは、**“親の欲を満たした時だけ褒められる”**というパターンです。
親が望む学校に受かった時だけ褒める、テストの点数が高い時だけ笑顔になる。
子どもは「自分」が褒められているのではなく、「親の期待を満たした道具としての自分」が評価されていることを敏感に感じ取ります。
その結果、「自分で自分を肯定する土台」が育たないまま、大人になってしまうことがあります。
では、すでに大人になってパーソナリティ障害で苦しんでいる方は、どうすればいいのか。
いきなり恋愛や家族関係など「プライベートな人間関係」で健康的な関係を築こうとしても、ぶつかることが多く、傷つきやすいです。
そこで私がおすすめしているのは、まず「ビジネスの人間関係」から練習することです。
たとえば
精神科外来にきちんと通い続ける
訪問看護を安定して受ける
カウンセリングが可能なら、同じカウンセラーと定期的に会う
といった、「お金を払って成り立っている関係」で、
最低限の約束を守りながら、人との信頼関係を少しずつ積み上げていく。
月に1回、1時間でもいいから、相手を裏切らずに付き合い続ける経験を重ねていくと、
「自分は、何も差し出さなくても、ちゃんと関わってもらえるんだ」
という感覚が、少しずつ体に染み込んできます。
そこから、SNSでのこきおろしを減らしてみる、身近な人に対して感情的な爆発を少し我慢してみる──
そうやって、プライベートな人間関係にも、じわじわと“安全なパターン”を広げていけるといいな、と思います。
最後に一つだけ。
これから子育てをされる方にお伝えしたいのは、
「子どもが“親の理想を叶えた時”だけでなく、“子ども自身が頑張った時”をちゃんと見て、具体的に褒めてあげてください」
ということです。
それが、将来パーソナリティの問題に苦しまずにすむ、大きな土台になると思います。
なお、「死にたい気持ち」との付き合い方については、拙著『希死念慮ちゃん』の中で詳しく書いております。
生きるのがしんどい方、その支えになりたい方に向けて、渾身で書いた本ですので、もしよろしければ手に取っていただけると嬉しいです。
精神科医の芳賀高浩でございました。
また19時にお会いしましょう。では今日はこのへんで。さようなら。
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