毒に強い動物がいるのに、なぜヘビは毒を持ち続けるのか?【ゆっくり解説】
毒ヘビに噛まれても平気な動物がいるらしい。でも、それなら毒ヘビ側はいずれ毒が効かなくなって、毒を失っていくんじゃないでしょうか。
マムシ類を食べるオポッサムの一部(クロミミオポッサムなど)は、血液凝固に関わるvWFというタンパク質の変化によって、出血性の毒成分への耐性を持っています。毒成分ボトロセチンが結びつく部位12か所のうち3か所で、それ以外の193か所中4か所と比べて有意な偏りを伴う変化が見つかりました。ただし、この耐性は「オポッサムなら誰でも持っている」ものではありません。近縁のMetachirus属には耐性がなく、同じ仲間の水オポッサムは耐性の有無自体がまだ確認されていません。
さらに不思議なのは、全く別々の系統でも同じ場所が変わっていることです。ハチミツアナグマ、ハリネズミ2種、ブタは、神経毒を受け取る受容体の187番目という同じ場所に、同じような置き換わりを独立に獲得していました。一方、マングースは同じ場所に、別の仕組み(糖鎖付加)で変化を起こしています。耐性になれる「解法」自体が、かなり限られているのかもしれません。
カリフォルニアのガラガラヘビとジリスの関係では、集団によって毒の強さも血清の効き目も約3倍の差がありました。そして、ヘビの毒は、標高帯が違う別の地域のジリスよりも、同じ地域のジリスに対してのほうが、毒の活性を約10%多く保っていました。「獲物(ジリス)が先に進化するはず」という予想とは逆に、むしろ捕食者であるヘビの側が、地域ごとに先回りしているように見える結果です。
それに、毒を作ること自体も、少なくとも一部の毒ヘビでは、従来考えられていたほどコストの高い行為ではないかもしれません。死亡毒アダーでの調査では、毒の補充にかかる負担は、消化や脱皮のコストと比べて相対的に小さいという結果も出ています。
「耐性を持つ動物が増えれば、毒ヘビは毒を失っていくはずだ」という予想は、少なくとも今回確認した範囲では裏付けられませんでした。耐性は特定の系統・特定の毒成分にしか効かない限定的なもので、ヘビの側も地域ごとに毒を調整し続けています。武器と防御の追いかけっこは、どちらかが一方的に勝って終わる話ではなく、今も進行中の攻防のようです。
「生物のなぜ?」では、生き物や進化、自然界に隠れた「なぜ」を、霊夢と魔理沙の掛け合いで紹介しています。
大切にしているのは、実験や観察で確かめられたことと、まだ仮説にとどまっていることを分けて伝えることです。
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【チャプター】
00:00 導入
00:38 第1章 オポッサムの血液と毒
04:23 第2章 別々の動物が同じ答えにたどり着く
08:06 第3章 ガラガラヘビとジリスの地域ごとの攻防
11:43 第4章 毒を作り続ける負担
14:54 結び
【音声】
AquesTalk(ゆっくりボイス) ゆっくり霊夢・ゆっくり魔理沙
【主な参考文献 / References】
■ オポッサム科(Didelphis・Philander・Lutreolina等)で、血液凝固タンパクvWFの遺伝子配列を比較した研究。毒成分ボトロセチンの結合部位12か所中3か所に、それ以外の193か所中4か所と比べて統計的に有意な偏りを伴う変化が見つかった一方、近縁種Metachirusには耐性がなく、水オポッサムChironectesは耐性の有無自体が未確認(本文確認済み)
Jansa, S.A., Voss, R.S. (2011). Adaptive Evolution of the Venom-Targeted vWF Protein in Opossums that Eat Pitvipers. PLoS ONE, 6(6), e20997. DOI: 10.1371/journal.pone.0020997
■ 毒ヘビのα-ニューロトキシンに対する分子レベルの耐性進化を整理した総説。ハチミツアナグマ・ハリネズミ2種・ブタが受容体の187番目という同じ場所で同じような置換を独立に獲得し、マングースは同じ場所で糖鎖付加という別の仕組みを使っていることを報告している(本文確認済み)
Khan, M.A. et al. (2020). Widespread Evolution of Molecular Resistance to Snake Venom α-Neurotoxins in Vertebrates. Toxins, 12(10), 638. DOI: 10.3390/toxins12100638
■ カリフォルニア12集団のガラガラヘビとジリスを対象に、毒のSVMP活性とジリス血清の中和力を測定した研究。両者とも集団間で約3倍の差があり、ヘビの毒は標高帯が違う別地域のジリスよりも、同じ地域のジリスに対して毒の活性を約10%多く保っていた(本文確認済み)
Holding, M.L., Biardi, J.E., Gibbs, H.L. (2016). Coevolution of venom function and venom resistance in a rattlesnake predator and its squirrel prey. Proceedings of the Royal Society B, 283(1829), 20152841. DOI: 10.1098/rspb.2015.2841
■ 死亡毒アダーで、毒を採取した後の代謝率の変化から毒の補充コストを検証した研究。毒の補充にかかる総コストは、消化や脱皮のコストと比べて相対的に小さいという結果が得られた(要旨確認済み)
Pintor, A.F.V., Krockenberger, A.K., Seymour, J.E. (2010). Costs of venom production in the common death adder (Acanthophis antarcticus). Toxicon, 56(6), 1035-1042. DOI: 10.1016/j.toxicon.2010.07.008
【動画内で扱わなかったこと】
ハチミツアナグマ等の収斂進化を最初に報告した原論文(Drabeck et al. 2015)は本文を確認できず、総説経由の記述にとどめています。毒耐性進化全般を扱う総説(van Thiel et al. 2022)、ガラガラヘビの毒遺伝子の多様性に関する研究(Schield et al. 2022)、毒生産コストについて逆方向の結果を示す可能性のある研究(McCue 2006)も、いずれも本文を確認できなかったため、数値や結論は扱っていません。また、オポッサムのvWFの変化が実際に毒への耐性につながっているかどうかは、著者ら自身が「試験管内や生体での実験による検証が必要」とする仮説段階であり、この動画でも証明された事実としては扱っていません。
#生物のなぜ #進化 #生き物 #毒ヘビ #収斂進化
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